この記事の対象
- 業務システムを入れたいが、既製品と個別開発のどちらがよいか決めかねている
- 複数社から提案を受けたが、機能の比較表だけでは判断がつかない
- 以前入れたツールが使われなくなり、同じことを繰り返したくない
4つの選択肢を同じ軸で見る
比較表は機能の数で並びます。導入後に効いてくるのは、変えたくなったときに変えられるか、やめたくなったときに戻せるかです。
| 選択肢 | 向いている場面 | 費用のかかり方 | 変更のしやすさ | やめるときの戻しやすさ |
|---|---|---|---|---|
| 既製SaaS | 会計や勤怠など、社内で完結する業務 | 月額。人数と保存容量で増える | 設定の範囲なら早い。範囲外は提供元の更新待ち | CSVで出せるかが分かれ目 |
| ノーコード/ローコード | 工具の見積・受注記録など件数が少ないもの | 月額+つくり込みの工数 | 触れる人が社内にいれば早い | データは出せても、画面は残らない |
| 個別開発 | 管路調査の記録など方式も様式も分かれるもの | 初期費用+保守 | 直す相手がいれば自由。いなければ止まる | 手元に残るが、動かす人が要る |
| 既存システムとの連携 | 台帳Excelは残し、写真と番号の受け渡しだけ足す | 連携部分の開発と維持 | 連携の範囲は変えやすい | 連携を止めれば、元に戻しやすい |
まず既製で足りるかを確かめ、足りない部分だけを別の手段で埋めると、引き返しやすくなります。
選ぶ前に決めておく判断軸
1. 提出先が受け取れる形で出せるか
発注者や元請が様式を決めている業務では、これが最初の制約になります。指定の様式で出力できるか、写真のファイル名の規則を満たせるか、年度で凡例が変わったとき自社側で直せるか。ここで通らない製品は、ほかの軸を見る前に外します。
2. 業務がその型に合うか
デモは、その製品が想定する手順で進みます。自社の実際の1件を、最初から最後まで通せるかを確かめます。
3. 自社のデータを自分で取り出せるか
出力形式は何か、一括で出せるか、担当者が自分で実行できるか。加えて、私たちの記録はテレビカメラ調査もドローン測量も中心が写真です。写真がどのレコードのどの項目に紐づいていたか分かる形で出せるか、ファイル名に案件やスパン、写真番号が入るかまで確かめます。「CSVは出せます」で安心すると、写真だけ並べ直すことになります。
4. 誰が直し続けるか
先に見積もるのは、年に何回、どんな変更が起きるかです。下水道の調査なら年度替わりの様式の改定、犬の事業なら料金やコースの改定です。設定変更の範囲なら社内、様式そのものが変わるなら提供元か開発元です。ただ、担当が数人の会社では、社内に直せる人がいる前提の選び方は成立しにくいと考えています。
5. やめるときに戻せるか
始める前に、やめ方を確認します。項目は後の節にまとめました。
業務を型に合わせるか、型を業務に合わせるか
既製品を選ぶことは、業務をその型に合わせることでもあります。目安は「この手順を他社と同じにして、困る人がいるか」です。勤怠や経費精算のように社内で完結する業務は、型に合わせたほうが維持も楽になります。
発注者の様式が決まっている帳票は、これに当てはまりません。デモの場で、自社の様式にしかない項目を1つ追加してもらいます。追加に提供元への依頼が必要なら、様式が変わるたびに提供元待ちになると分かります。業務側の整理は業務フロー診断の進め方にまとめています。
この見極めは、代表がプラント向けの海外プロジェクトで毎回問われた判断でもあります。海外ベンダーの標準に運用を合わせるか、外して作り込むか。効いたのは機能の有無ではなく、標準から外した箇所がバージョンアップのたびに作り直しになる点でした。
組み合わせで考えるほうが現実的
落ち着く形が1つの選択肢だけ、ということはあまりありません。決めておくのは境界です。
案件番号を正とし、番号が振られていない情報は台帳に載せないようにしています。同じ項目が2か所にあるときは、先に発生する側を正とします。距離と写真番号は現場側、請求金額は会計側です。
ククルFMがどう判断しているか
私たちは複数の事業を自社で持っており、事業ごとに結論が分かれています。
犬の事業では、群馬県桐生市の店舗でトリミング、ペットホテル、ドッグラン、しつけ教室、仔犬販売を扱っています。同じ「予約」でも、トリミングは施術時間、ホテルは泊数、ドッグランは時間貸し、教室は定員制で、枠の数え方が違います。既製のサロン向け予約サービスは、このうち1つを前提につくられていることが多いものです。仔犬販売の側には、血統書やマイクロチップの登録番号のように、予約の画面には置き場所のない情報もあります。
下水道の管路調査は、ミラー方式、テレビカメラ調査、アナログテレビカメラ調査、取付管調査、押し込みカメラ調査と方式が分かれ、残す記録も違います。既製の点検記録サービスは1つの入力画面を前提にしていることが多く、5方式を1画面に押し込めば使わない項目が並び、方式ごとに分ければ設定できる数の上限に当たります。ここは必要な形をつくって既存の運用とつなぐほうが現実的だと考えています。
工具の販売は法人向けで価格が個別のお見積りのため、価格が固定された販売機能とは合いません。映像制作では素材の容量が大きく、保存容量で料金が変わるサービスに素材そのものは置きません。
代表がコンサルティング会社での業務改革の支援で繰り返し見てきたのは、大きな仕組みを入れたものの、現場がその横で別のExcelを持ち続ける形です。どの情報を正とするか、例外を誰が判断するか、様式が変わったとき誰が直すか。これらが決まらないまま範囲を広げた場面でした。
契約前に確認していること
次の5つは、そのまま提案元へお渡しできる形にしています。
- 取り出し … どの形式で出せますか。写真や変更履歴も対象ですか
- 連携 … 外部との受け渡しはできますか。回数の制限はありますか
- 料金 … 人数や容量の上限を超えるとどうなりますか。協力会社の作業員も数えますか
- 保管場所 … どの国で保管されますか。再委託先はありますか
- 解約時 … 契約期間と申し出の期限はいつですか。解約後いつまで取り出せますか
回答は口頭で受け取らず、契約書と利用規約のどこに書かれているかまで確認します。発注先の役割の違いはFDEとは何かで整理しています。
明日からできること
- 直近の案件を1件選び、その1件を最初から最後まで入力してもらうデモを提案元に依頼する
- その場で、自社の様式にしかない項目を1つ追加してもらう
- 契約書と利用規約で、前の節の5項目を確認する
この3つが通らない製品は、機能がどれだけ多くても候補から外しています。
よくある質問
既製SaaSと個別開発では、どちらが安く済みますか。
金額は業務と人数で変わりますが、比べ方はお伝えできます。何年使う前提かを先に決め、同じ年数で並べます。既製は、月額×利用人数×月数に、保存容量の追加分と、合わない部分を人手で埋める時間を足します。個別は、初期費用に年間の保守×年数と、様式が変わるたびの改修を足します。
今使っているシステムを入れ替えるべきでしょうか。
動いているものは、まず残す前提で考えます。困りごとが入口と出口に集中しているなら、その2か所を足すだけで済むこともあります。入れ替えの検討は、元のシステムがデータを出せないと分かってからでも遅くありません。
選定の段階から相談できますか。
できます。製品の販売代理は行っていないため、既製で足りるならその形をお勧めします。業務の整理から進める場合は、お問い合わせからご相談ください。
導入した後に使われ続ける状態のつくり方は現場DXとは何かに、 支援の範囲と進め方はFDE・AI実装支援のページにまとめています。