この記事の対象
- AIを使いたいが、自社のどの業務に当てはめればよいか決まっていない
- 現場と事務で、それぞれ何から試せるのかを知りたい
- どこまで任せてよいか、何を入力してよいかの線引きがほしい
試した結果、「探す」「まとめる」「下書きする」に落ち着いた
私たちは最初、管路調査の異常ランクの候補出しを試しました。候補を確かめるには結局、その年度の仕様書の凡例と写真を人が見直すことになり、自分で判定するのと変わりません。そこで用途を、出力の良し悪しをその場で確かめられる3つに戻しています。
| 使い方 | AIに任せる部分 | 人が確かめる手段 |
|---|---|---|
| 探す | 過去の資料から候補を挙げる | 元ファイルを開き、該当行を見る |
| まとめる | 長い記録を要点に縮める | 元のメモと要点の項目名を突き合わせる |
| 下書きする | 様式に沿った文章を用意する | 写真番号列と写真フォルダのファイル名を照合する |
現場の仕事での活用例
自社の下水道の管路調査でいえば、報告書の行ごとに任せる範囲を決めます。報告書には、スパン(マンホール間)、管種と口径、距離、異常項目とランク、写真番号が並びます。
- 所見欄の文章 … 異常項目とランクと距離を渡せば下書きが出る。ただしランクはAIに出させない。凡例が発注者と年度で変わるため、過去データを混ぜると古い凡例の判定が紛れ込む
- 現場写真の並べ替え … スパン番号と距離で並べた候補をAIに出させる。写真番号と距離の突合は人が行う
- 点検メモの整形 … 手書きの走り書きを、決められた用語と並び順に直す。「ヒビ」「クラック」のように呼び方が割れる語をそろえる
- 過去案件の検索 … 過去の報告書を検索できる形にまとめておけば、ファイル名を覚えていなくても文章で探しやすくなる
現場に残すか事務所へ持ち帰るかは、その入力が現場でしか手に入らないかで分けます。写真と音声は現場でしか取れないので、現場では撮る・録るだけにし、文章化と並べ替えと要約は事務所側に置きます。電波や手袋の制約は現場DXとは何かに書いたとおりです。
バックオフィスの仕事での活用例
資料作成、議事録作成、映像制作、工具販売は自社の事業として回しています。順番を入れ替えながら試した結果です。
- 議事録 … 決定、保留、宿題(担当と期日)に分けて並べ替える。話した順に整理させると、後で読み返されない
- 報告書・提案書 … 章タイトルと各章の結論を1行ずつ人が書いてから、文章化を任せる。構成からAIに出させたところ、言いたいことが章立てに入らず、書き直しのほうが長くなった
- 工具販売の品名整理 … メーカー名と型番の全角半角、旧品番と現行品番の表記ゆれを一覧にする。ただし在庫数と納期の回答文は作らせない。在庫は日中に動き、AIが見た時点の数字が古くなる
- 映像制作の下ごしらえ … 撮影素材の書き出しと字幕の下書きに使う。仕上がりの表現とテロップの事実確認は人が行う
- 社内マニュアルの検索 … 手順書を検索対象に取り込んでおけば、フォルダが分かれていても文章で候補を出せる形にできる
- 問い合わせへの返信 … 過去の似た問い合わせと回答を探し、返信のたたき台をつくる。在庫、納期、金額に触れる部分は人が書き足す
人が最終判断すべき範囲
線の引き方は事業ごとに違います。私たちの場合は次のとおりです。
- 管路調査 … 異常ランクの確定と、写真番号・距離の突合
- 清掃・建設施工 … 作業完了の可否、出来形と安全の確認。残留の有無は現地でしか見えない
- 工具販売 … 在庫、納期、値引きの回答
- 映像制作 … 納品前の表現と、テロップの事実確認
- 犬の健康管理・ブリーディング … 体調の異常兆候の見立てと、飼い主への伝達
とくに犬の健康管理は、AIの見立てをそのまま飼い主へ伝えてはいけない例です。誤りが動物の体に及び、後から根拠を説明する必要があるためです。
AIに入力してよい情報と、扱うべきでない情報
入力してよい情報と扱うべきでない情報の区分は、FDE・AI実装支援に掲載しています。ここでは、入力できない資料が中心の業務でどこにAIを刺すかを書きます。発注者からお預かりした図面や仕様書は入力しませんが、次の形なら進められます。
- 仕様書そのものではなく、自社でつくった読み替えメモ(凡例の対応表、用語の言い換え表)を入力対象にする
- 発注者名、路線名、住所を伏せ、スパン番号と距離と異常項目だけを残した形に整えてから渡す
- 図面は入力せず、図面から人が読み取った数値だけを扱う
- 音声は録る前に相手へ断る。断りが取れない場面(現場での電話、当日の段取り変更)は録音せず、通話後に起こしたメモの文字だけを渡す
紛らわしいのは規格です。法令・通達と違い、JISやISOなどの規格票は複製や再配布に条件があるため、購入した全文をそのまま外部のAIサービスへは入れません。「取り決めた範囲の業務データ」も、保管場所、利用目的、保存期間、アクセスできる人を具体名で決めてはじめて機能します。
ツール側は、学習利用のオプトアウト設定の有無、入力データの保存期間と削除の可否、保存される地域を確認してください。入力履歴を見られる人と、退職者アカウントの扱いもあわせて見ます。個人向けプランは既定で学習に使われるサービスがあるため、法人向けの契約に切り替え、切り替え後に設定画面を見直します。
使い始める順番
用途を1つに絞ること、確認手順を先に文章にしておくことは、AI導入が現場に定着しない理由に書いたとおりです。代表がコンサルティング会社で業務改革を支援していた際に見てきたのは、利用回数は増えても、業務側の日数が動かない例です。用途を決めるときは、「この用途で短くなるのはどの日数か」を先に決めます。よく使う指示は定型文にして様式と一緒に置きます。
- 日報 …「以下のメモから、作業区間・使用機材・立会いの有無・申し送りの4項目に分けて日報の文面を作る。メモにない項目は『記載なし』と書き、推測で埋めない」
- 議事録 …「決定/保留/宿題(担当・期日)の3見出しで並べ替える。発言の順番は無視する。担当と期日が特定できない宿題は『担当未定』と明記する」
「推測で埋めない」「未定と明記する」と書いておくと、確認で見る場所がその語に集まります。やめる基準も先に決めます。下書きを直す時間が、最初から自分で書く時間を超えたら、その用途は下ろす。2〜3回続けて超えるなら、指示文ではなく用途の選び方の問題として扱います。
ククルFMがどう考えているか
私たちは、AIを人の置き換えではなく、判断、対話、現場でしかできない仕事に人が集中するための道具として実装しています。用途を「探す」「まとめる」「下書きする」に絞っているのは、この線の引き方の現れです。
言葉をそろえる下ごしらえから任せるのも、同じ理由からです。代表がプラント向けの海外プロジェクトで時間を取られたのは、仕様書と現場で呼び名がずれた記録の照合でした。呼び名がそろっていれば、人は突き合わせではなく判断に時間を使えます。
よくある質問
ツールは1つに決めるべきですか。
用途ごとに分かれてもかまいません。ただし、入力してよい情報の線引きと、出力を確認する手順は、ツールに関係なく1つにそろえます。ばらばらに増やすと、確認されない出口ができるためです。
無料のツールから始めてもよいですか。
公開資料で試すだけなら差し支えないことが多いです。業務の記録や顧客に関わる情報を入れるなら、上に挙げた設定を契約書と管理画面で確かめてからにしてください。
AIの利用をお客様に伝える必要はありますか。
お客様からお預かりした情報を扱う場合は、利用するツールと範囲を事前にお伝えし、取り決めた範囲でのみ使うようにしています。求められるセキュリティの水準は案件ごとに違うため、開始前にすり合わせます。
情報そのものの整え方は散らばる情報を業務データへ変える方法にまとめています。 自社ではどこから始められるか、ご相談もお受けしています。